ミルトスの木かげで

旧はちことぼぼるの日記

God Bless you!!

まことのいのちを得るために…
……so that they may TAKE HOLD OF THE LIFE THAT IS TRULY LIFE.
(第一テモテ6章18節 写真はミルトスの花)

A series of unfortunate events

 と言っても、レモニー・スニケットの本ではなく、今日の中村家の一日のこと。
 今日はケンの学校の最終日で、一時間だけ登校。みんを朝10時からの歯科定期検診に連れていき、戻ってきてから12月末に申請した日本のパスポートを取りに行くために、エミを除く全員でシカゴへ向かった。
 パスポートは申請するときも取りに行く時も、本人が出頭しないといけないのだが、領事館が開いているのは平日の4時半まで。それで、12月に申請したにもかかわらず、今まで取りに行くチャンスがなく、6ヶ月間の預かり期限ギリギリの今日になってようやく…ということに。
 12時15分から領事館の窓口がお昼休みになるので、それまでに間に合うように慌てて出発したものの、なんと高速道路で事故があり渋滞に巻き込まれ、結局到着したのは1時ちょっと前。そこで先にお昼ご飯を食べ、それからみんが来週から出かける高校のヨーロッパ旅行に持っていくユーロを購入し、2時前に領事館へ着いた。
 窓口に行くと、前回もお世話になった係の方がいて、「中村です。長らくお預かりしていただいていたパスポートをようやく取りに参りました」と言うと、「はい、中村さん」とすぐに出してきてくださった。

係の人「では、パスポート受領書を」
私「え?」
係の人「こういう紙、お渡ししてありましたよね?」
私「すっかり忘れてて… 持ってくるの忘れてしまいました」 動揺する私。でも係の方は親切で、私の免許証と、子どもたちの生年月日と顔の確認だけで、よしとしてくださった。それから電卓をやおら取り上げて、パチパチと数字を入力。
係の人「では、4人分で468ドルです。現金かマネーオーダーでお願いします」
私「あっ… すっかり忘れていました。あの… この近くに郵便局は…(マネーオーダーは郵便局で作る)」
係の人「(怪訝な顔で)郵便局は… ちょっと遠いですよ。でもATMなら近くにありますが」
私「あっ、そうですね。ATMで現金をおろしてくればいいですよね。すみません、今急いで下ろしてきます!」

 実は私はキャッシュカードを持っていないので、夫に、「ねえ、現金下ろしてくるから、キャッシュカード貸して!」と言ってカードをもらうと、領事館のあるビルの隣のドラッグストアに駆け込み、そこにあるATMマシンにカードを挿入。必要額のボタンを押して… ところが。

ATMマシン「Transaction denied. Your card has been expired.あなたのカードは失効しています」
 愕然として吐き出されたカードを見ると、先月で期限が切れている。そんなバカな!!
 夫に電話し、「カード、先月で期限切れになっててお金が下ろせなかった!とにかく急いで郵便局に行ってくるから、待ってて!」と伝え、外に飛び出した。といっても、どこに郵便局があるのかわからない。
 バーバリーだのコーチだの、ブランド物のお店の並ぶミシガン通りを歩きつつ、郵便局を探す。確かジョン・ハンコックタワーの地下にあると言ってたはずだけど、ジョン・ハンコックタワーってどれ? お上りさんなので地図がないとわからない。
 途中何人かの人に道を尋ね、あちこち違う方向を教えてもらった挙げ句、ようやくよく分かっているらしいおばさんが、てきぱきと郵便局の場所を教えてくれた。その時いた場所からはかなり離れていた。ちなみに今日の気温は35度くらいで、体感温度は38度を越えていた。うだるような暑さの炎天下、私は郵便局を目指して必死で歩いた。15分くらい歩いて、ようやく郵便局にたどりつくと、窓口に駆け込み、「あの、マネーオーダーを作りたいのですが。」

局員「現金ですか、デビット(キャッシュカードを使った引き下ろし)ですか?」
私「ええと…クレジットカードか小切手で…」
局員「今オプションをあげたでしょう。現金ですか、デビットですか?」
私「…… クレジットカードか小切手しかないのですが…」
局員「(吐き捨てるように)マネーオーダーは現金かデビットでないと作れませんよ。次の人、どうぞ!」

 私は、小さな声で「Thank you...」とつぶやくと、よろめきつつ局の外に出て、入り口の横にあった植木のかげに隠れ、座り込んで顔をおおってしまった。「一体どうしたらいいの?」

 ぼぼるパパに電話をし、郵便局もだめだった旨を伝えると、彼は私のことは一言も責めずに、「明日また来ればいいよ」。
 でも、私としては、明日もう一度子どもたちを連れて出直すのはどうしても避けたかった。今日も、他に予定のあった子どもたちを、「早くしなくちゃいけないことだから」と、強引に連れてきたのだもの。
 電話を切ったあと、涙を拭いてフラフラと立ち上がり、領事館に向かって、来た道を戻り始めた。暑い。頭がクラクラする。それでも私は祈りつつ考えた。どうすればいいのでしょう、神様? 事前に用意するものをちゃんと確認しなかった私が悪いのですが、助けてください…
 現金を手に入れる最後の手段は、クレジットカードで現金を引き下ろすこと(キャッシュアドバンス)。でも、キャッシュアドバンスは手数料がかかる上に、日ごとの複利で大変な利子がついてしまうので、絶対に使いたくないものだった。
 しかし、私はオンラインでクレジットカードを管理しているので、帰宅してから今日中にすぐに支払うならば、手数料だけで、利子のことは心配しないでいいかもしれない…そうひらめいた。
 そこで、最寄りの私のクレジットカードと同じ大手の銀行に飛び込み、そこのATMマシンでキャッシュアドバンスをしようとした。ところが、キャッシュアドバンスをATMマシンで利用するためには、事前に暗証番号を設定しておく必要があり、私はそれをしていなかった。なにしろ、キャッシュアドバンスなど、絶対に使わないと思っていたから。どこまで行ってもうまくいかない… なぜ… しかしもう一度、気を取り直して、銀行の窓口で交渉することにした。
 髪の毛をふり乱しながらハァハァと肩で息をし、汗まみれになった私が入っていくと、係の人が出てきて、丁寧に「今日は何がお入り用ですか?」
 私は手に握りしめたクレジットカードを差し出しながら、息も絶え絶えに、「現金を… クレジットカードを使って… 現金が… ほしいのです…」 係の人は、多分ちょっと引いたと思う。そんな表情をしてた。それでもあくまで丁寧で、私を窓口に案内するかわりに、奥のデスクのところに連れていき、座らせてくれた。
 そして、私の免許証を確認しながら、「おや、南郊外にお住まいですね。私も、シカゴ市内に来る前は、南郊外に住んでいました」などと、場がなごむ(?)ような会話をしながら、私の願いを聞き届け、必要な額の現金を持ってきてくれた…!
 口座を作りませんかと誘われ、私もそうしたいのはやまやまですが、今は急いで領事館に戻る必要があるのでと、その人の名刺だけもらってその場を後にした。
 そこから領事館までの足取りは軽かった。というか、サラ金地獄にはまって苦しんだ挙げ句、ようやく返済金を揃えた人のような気持ちというか、「耳を揃えてキャッシュを用意したぜ」という気持ちに、ちょっと高揚していた。
 領事館に戻り、「お金、用意してきました!」と窓口の人にお金を渡すと、彼はニヤニヤしていた。きっと変なおばさんだと思われたに違いない。私のように、何も用意しないでパスポート取りに来る人なんて、いないに違いない。とても恥ずかしい。でも無事に、パスポートをもらうことができた。やれやれ…

 ようやく家に帰りついたのは、結局5時ちょっと前だった。ぼぼるパパとケンは、今夜はシカゴ・ホワイトソックスとマリナーズの試合を観に行った。

 くだらない話を長々とすみません。本当にくだらない話だ… でも、吐き出してすっきりした。(笑)

 私の不手際のために、家族のみんなの時間もたくさん無駄にしてしまったけれど、誰一人として私を責めず、みんなユーモアで乗り切ってくれたことには、本当に感謝。責めるどころか、「ママはよく頑張ったね!」とねぎらってくれた。もしもこれが、逆にぼぼるパパの失態だったなら、私はさんざん小言を言ってただろうと思う。家族の優しさを見習って、私ももっと優しく、寛容にならなくてはとつくづく思う。

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