ミルトスの木かげで

旧はちことぼぼるの日記

God Bless you!!

まことのいのちを得るために…
……so that they may TAKE HOLD OF THE LIFE THAT IS TRULY LIFE.
(第一テモテ6章18節 写真はミルトスの花)

 父兄参観の講義をする

授業の父兄参観と言えば、日本では小学校かせいぜい中学校くらいまでだろう。ところがアメリカでは大学にも父兄参観日があるのだ。高い授業料を払っているのだから、子供がどんな講義を受けているのか親が自分の目で確かめたいという、いわば消費者のニーズに応える制度である。だいたい年度が始まってひと月くらい、新入生も生活のペースがつかめてきた頃合いを見計らって行われるのが普通だ。

シカゴ大学の場合は、「ファミリー・ウィークエンド」と称して、新入生とその家族を対象とした「モデル講義」が週末にいくつか企画される。今までそんなものには縁がなかったのだが、6月に流体実験室をオープンした関係で、今年は私にも白羽の矢が立ってしまった。お前の講義は毛色が変わってていいや、ということらしい。そんなわけで、土曜日に「回転する地球とその大気」と称して1時間のモデル講義をやってきました。講義といっても、パワーポイントのプレゼンを30分と、実験のデモが30分くらい。驚いたことに25人くらいの聴衆はほとんど全員ご父兄で、夫婦で参加している方たちも多かった。

話の中身を一部紹介しよう。北半球でキッチンの流しに水をためておいて栓をぬくと(あるいは洋式トイレで水を流すと)、地球の自転の影響で水は反時計回りに渦を巻きながら流れ出ていく、という話を聞いたことはないだろうか。これは、限りなく真っ赤に近い嘘である。地球の自転は水の流れに比べて非常に遅いので、水流の方向が自転の影響を受けることは全くないと言っていい。(でもうちの浴槽の栓を抜くと渦巻きができるよ、とそばではちこが抗議しているが、これは排水口の作りによるのであって、地球の自転の影響ではございませぬ。)それを示すのがこの実験である(QuickTime Movie ~ 4メガバイト)。

水槽に水を張り、底の栓を抜く。栓の周りに振りまいた茶殻は、底の方からゆっくり穴に吸い込まれ、やがて水位が下がると、一気に集中するように流出していく。流れのパターンは(近くに壁があるためやや非対称なのをのぞけば)単純な吸い込みで、とくに目立った渦巻きは見られない。(退屈な実験だ。)

しかし、水の流れと自転の時間スケールが接近すると、話は別である。次の実験では、水を張った水槽を毎分10回の割合で反時計回りに回転させておいて、水を抜く。(QuickTime Movie ~ 9.6メガバイト)。

カメラは水槽と一緒に回転しているので、水ははじめ静止して見えるが、水槽の外の床が時計回りに回転して見えるのが確認できるだろう。前の実験と同じように水を抜いているにもかかわらず、今度は排水口付近の茶殻があきらかに反時計回りの渦を巻くのが見てとれる。途中で水を抜くのをやめると、渦は排水口から切り離されて、勢力を弱めながら右下の方へ移動していく。

これはまさにハリケーンや台風が渦を巻くメカニズムと同一である。この夏アメリカ南部を襲ったハリケーン、カトリーナのこの雲画像QuickTime Movie ~ 4.9メガバイト)を見ると、渦の巻き方が排水口の流れとよく似ていることが分かると思う。どちらの場合も、渦を作り出すのは流体の回転と、流体の上下の伸張である。実験では、水槽の回転と排水口からの吸い出しがその役目をはたし、ハリケーンの場合は地球の自転と積雲対流による上昇気流が同じ役目を果たしている。ハリケーンは上陸すると水蒸気の供給が絶たれて積雲対流が弱まり、渦も弱まる。これはちょうど実験で水を抜くのを止めるのに相当する。

簡単な実験で自然界の現象を大雑把に再現できるのが、地球流体の面白いところだ。

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