ミルトスの木かげで

旧はちことぼぼるの日記

God Bless you!!

まことのいのちを得るために…
……so that they may TAKE HOLD OF THE LIFE THAT IS TRULY LIFE.
(第一テモテ6章18節 写真はミルトスの花)

"Atmospheric Science" 第2版の表紙


 アメリカの大学で気象学を学ぶ者にとっては古典的な教科書である、Wallace & Hobbsの「Atmospheric Science: an introductory survey」が約30年ぶりに改訂されることになった。これに先立ち、著者で17年来の友人であるワシントン大学のWallace教授から、大昔に私が描いたイラストを表紙のデザインに使いたいと連絡をいただいた。何でも、14年まえに米国物理学会から出版されたPeixoto & Oort著「Physics of Climate」の内表紙に頼まれて描いた白黒の絵が気に入ったそうなのだ。
 この作品については、当時Oort博士からの詳細な依頼でいろいろと手を加えた経緯があり(竜やラクダを入れてほしいとか、ラテン語の碑文を使いたいとか)、私自身にとってもいわくつきで思い出深い一点だったので、二つ返事で承諾した。実はイラストの版権が誰にあるのかよくわからないのだが(契約書に署名した覚えがない)、それは著書と出版社の方で調整してくれるのでしょう。ちなみに「Physics of Climate」の方は改訂されないことが決まっており、こういう形でタイトルを超えて自分の作品が受け継がれていくのは、光栄なことである。内表紙から表紙に格上げされるのもちょっとうれしい。

 しかし、先々週に出版社のElsevierから送られてきた表紙のデザイン案にはやや問題があった。私のイラストは他の写真や図面と組み合わせて使われているのだが、全体としてコントラストが強いデザインであるにもかかわらず、私のイラストだけは低コントラストでのっぺりした感じで、なんだか浮いていた。もともと中世の海図をモチーフにして意図的に平面的に描いてあるので、こういう使い方をするには切れ味が足りないのだ。(そもそも写真とはあまりにも質的に違うペンアートなので、並べて使うこと自体、大胆なアイデアである。しかし著者の意向もあるだろうから、そこまでは口出しできない。)

 Wallace教授も同じような印象を持ったらしいので、収まりがよくなるように少し手をくわえることにした。まず「Physics of Climate」から原画をスキャンし、全体的に濃淡を入れ、海図よりもレリーフのような感じにして、さらに青い色調を加えて他の写真との融合をはかる。手描きで数日かかったオリジナルに比べ、フォトショップでちょこちょこっといじるだけで、この間わずか20分。完成したファイルはEメールに添付して出版社へ返送。便利な世の中になったものだ。改訂された表紙は、前案に比べぐっと引き締まったと思う。

 年明けの1月末にアトランタである米国気象学会総会で、出版記念パーティーが持たれるそうだ。残念ながら私は出席できないのだが、参加予定の同業者の皆さん、ぜひ立ち寄ってみてください。

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