ミルトスの木かげで

旧はちことぼぼるの日記

God Bless you!!

まことのいのちを得るために…
……so that they may TAKE HOLD OF THE LIFE THAT IS TRULY LIFE.
(第一テモテ6章18節 写真はミルトスの花)

コモドとドコモ、子供はどこも悲喜こもごも口もごもご(早口言葉)

日本に帰国することの楽しみの一つは、理科教育や研究に関する日本語の良書を仕入れることである。この夏に日本で買ってきた本の中で、一番面白かったのが、慶応大学の下村裕先生による『ケンブリッジの卵』。下村先生が英国ケンブリッジ大学での2年間の研究休暇中に、本業の乱流理論ではなく、回る卵がなぜ立ち上がるかという、一見単純そうで実は奥の深い問題に取り組み、これを解決するに至った経緯が、事細かに描写されている。この研究は数年前にNature誌に取り上げられ、日本でも大々的に報道されたので、覚えている人も多いかもしれない。実は私は下村先生とケンブリッジで滞在期間が半年重なっていたのであるが、学科が違ったので、顔見知りになることができたのは、そのNatureの論文が発表になる直前であった。ミル・レーンのうどん屋で、本人の口から成果の解説をしてもらった時の興奮は今も忘れられない。(2002年3月26日の日記

このような個人的なつながりを差し引いても、この本はおすすめである。科学者が成果として公表するのは、要領よくまとめた論文であり、下村先生のNature論文に至っては、わずか1ページ半である。その結果に到達するまでの苦悩や努力などは、論文からは全く伺い知れない。しかし、そのプロセスこそがまさにサイエンスの本質なのであり、醍醐味なのである。この本を通して、下村先生が通ってこられた一進一退の道のりが手に取るようにわかり、こちらまで一喜一憂しながら研究している気分になってしまう。特に、近代科学の歴史を刻むケンブリッジ大学の学風、キース・モファット教授という一流の研究者との共同作業、ゆで卵という日常的なテーマに隠されていた大発見など、物理学者の日常と非日常が余すところなく語られていて、これから科学者をめざす中高生には、ぜひ読んでもらいたい一冊だ。研究の話の合間に、慶応大学での先生の講義の中身などにも話が及び、その巧みなチェンジアップによって読者を全く飽きさせないところが、ニクい。(アマゾンに寄せた書評より)

ケンブリッジの卵―回る卵はなぜ立ち上がりジャンプするのか

ケンブリッジの卵―回る卵はなぜ立ち上がりジャンプするのか

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